有名人の”いいね”が損害賠償に!?Twitter中傷投稿「いいね」訴訟の衝撃

近年、SNS上での誹謗中傷問題が深刻化しており、特に有名人が関与した場合の影響は甚大です。最高裁が初めて「いいね」行為に法的責任を認めた判例を取り上げ、一般人と有名人の法的責任や影響力の違いについて探っていきます。この判例を通して、SNS上における適切な言動と責任の重要性を改めて考えてみましょう。
1. はじめに – Twitter中傷投稿「いいね」訴訟の概要
この記事では、最高裁で確定したジャーナリスト・伊藤詩織氏と自民党の杉田水脈衆議院議員との間で行われた中傷投稿に関する訴訟について紹介します。この訴訟では、伊藤氏が自身を誹謗中傷するツイートに対し、杉田氏が「いいね」を押したことが争点となりました。
Twitter上での「いいね」は、投稿への賛同や共感を表すものであり、他のユーザーがその投稿を気に入った場合に押すことができます。しかし、本件では伊藤氏が中傷を受けたツイートに対して杉田氏が「いいね」を押したことで、伊藤氏の名誉感情が傷つけられたと主張し、損害賠償を求めたのです。
最高裁は、この訴訟において、「いいね」が伊藤氏の名誉感情を傷つける意図を持った違法行為であると判断しました。これは、SNS上での「いいね」が一つの投稿に対する賛同や共感を表すだけでなく、その投稿を支持する意思表示とも解釈されることを示しています。
この訴訟の判決は、Twitter上での中傷行為に対する法的責任を明らかにするものとなりました。一般人や有名人に関わらず、SNS上での誹謗中傷は法的に処罰される可能性があることが示されました。
以下では、この訴訟の経緯や裁判所の判断について詳しく解説していきます。
2. 裁判の経緯 – 地裁と高裁の判断の違い
この訴訟では、自民党の杉田水脈衆院議員に対して損害賠償を求めるために、伊藤詩織さんが自身を中傷するツイートに対して訴訟を起こしました。具体的には、杉田議員が伊藤さんのツイートに「いいね」を押したことが争点となりました。
一審の東京地方裁判所と二審の東京高等裁判所では異なる判断が下されました。地裁では、「いいね」を押す行為は一般的には好意的な感情を示すものであり、特段の事情がない限り違法ではないとされました。一方、高裁では、杉田議員が伊藤さんに対して批判的なツイートを繰り返し、「いいね」を押すことで名誉を傷つける意図があったと判断しました。また、杉田議員が国会議員であり、約11万人のフォロワーを持っていたことも考慮されました。
この判断の違いにより、一審では訴えが退けられましたが、二審では訴えが認められ、杉田議員に55万円の賠償が命じられました。最高裁でもこの判断が支持され、杉田議員の上告が退けられたため、敗訴が確定しました。
地裁と高裁の判断の違いは、「いいね」を押す行為の意図や影響力をどのように評価するかによるものでした。高裁は杉田議員の批判的なツイートとフォロワーの数を考慮し、伊藤さんの名誉を傷つける意図があったと判断しました。
この判断は、有名人と一般人の間の法的責任や影響力の大きさに関する問題を浮き彫りにしました。有名人である杉田議員の行動は多くの人に影響を与える可能性があり、その責任も大きいとされました。一方、一般人の行動は個別の事案として判断される傾向があります。
3. 最高裁の判断 – いいねへの賠償責任を初めて認める
最高裁判所第一小法廷は、杉田水脈衆院議員による「いいね」行為に対する賠償責任を初めて認める判決を下しました。この判決は、地裁と高裁の判断とは異なり、伊藤詩織さんの訴えを認め、55万円の賠償を命じるものです。
最高裁判所の判断は、杉田議員が伊藤さんを中傷するツイートに対して「いいね」を押し、伊藤さんの名誉感情を侵害したと認定しました。この判断は、杉田議員が国会議員であり、当時のフォロワー数が約11万人であることも考慮しています。
この判決は、「いいね」を押す行為がその内容や文脈によっては名誉毀損に該当する場合があることを示しています。しかし、この判決が一般的に適用されるべきものではなく、各個別のケースごとに判断されるべきだとも指摘されています。
「いいね」を押す行為が単なる表現の自由なのか、他者の名誉やプライバシーに対する侵害なのか、今後ますます注目される問題となるでしょう。
3.1 判決のポイント
最高裁の判断には以下のポイントがあります:
- 「いいね」の行為が名誉毀損に該当する場合があることが示された。
- 国会議員や高いフォロワー数も判断材料とされた。
- 各個別のケースごとに判断されるべきであり、一般化されるべきではない。
この判断によって、「いいね」行為の法的責任が明確化される一方で、具体的な違法行為の基準や適用範囲については今後の議論が必要となるでしょう。
3.2 影響と今後の展望
最高裁の判断により、「いいね」行為への賠償責任の確定は、ネット上での誹謗中傷に対する抑止力となる可能性があります。一方で、具体的な基準や適用範囲の明確化は、今後の法整備や裁判実務において重要な課題となるでしょう。
SNS上での誹謗中傷対策としては、プロバイダー責任制限法改正やプラットフォームの適切な監視体制の構築などが検討されています。また、個人のマナーやネットリテラシーの向上も重要な要素となります。
今後は、個々のケースに応じた適切な判断や制度の整備が求められるでしょう。
4. 法的責任と影響力の大きさ – 一般人と有名人の違い
SNS上での誹謗中傷における法的責任と影響力の大きさには、一般人と有名人の間には明確な違いが存在します。以下に、その違いを概説します。
一般人の場合
一般人の場合、自身を誹謗中傷する投稿に対して「いいね」を押されたり、その投稿が拡散されたりすることによって名誉が傷つく可能性があります。しかし、一般人は通常、自身に対する批判や中傷に対処するための十分な影響力を持っていません。そのため、法的責任を問うことは難しい場合があります。
有名人の場合
一方、有名人、特にインフルエンサーや公人などは、多くのフォロワーや支持者を持ち、その発信による影響力が大きいです。彼らの発言や行動は、社会に大きな反響を与える可能性があります。そのため、彼らが自身を誹謗中傷する投稿に対して「いいね」を押す行為は、より大きな法的責任を問われる可能性があります。
影響力と法的責任の関係
影響力と法的責任は密接に関連しています。有名人やインフルエンサーなどが自身を誹謗中傷する投稿に「いいね」を押すことは、その投稿に対する助長や賛同の意思表示と解釈される場合があります。その結果、投稿の発信者による名誉毀損行為がますます拡散され、被害者の名誉が一層傷つく恐れがあります。
また、有名人やインフルエンサーは、多くの人々に影響を与える立場にあるため、彼らの言動が公共の利益に沿わない場合、社会的な非難や批判を浴びるリスクも高いです。そのため、自己制御と責任の意識を持ち、SNS上での言動に慎重であることが求められます。
まとめ
SNS上での誹謗中傷における法的責任と影響力の大きさは、一般人と有名人の間で異なるものと考えられます。一般人は通常、名誉毀損行為に対して法的な救済を求めることが難しい一方、有名人やインフルエンサーはその発信の影響力が大きいため、自身の言動に対する責任を持つ必要があります。影響力が大きいほど、自己の言動によって他者の名誉を傷つける可能性が高まるため、慎重な行動が求められます。
- 一般人の場合
- 影響力が限られているため、法的責任を問うことは難しい。
- 有名人の場合
- 多くのフォロワーや支持者を持ち、影響力が大きいため、より大きな責任を負う可能性がある。
- 影響力と法的責任の関係
- 影響力のある人が誹謗中傷を助長する行為は、被害者の名誉を一層傷つける可能性がある。
- 有名人やインフルエンサーの責任
- 彼らは多くの人々に影響を与える立場にあり、公共の利益に沿わない言動は社会的な非難を浴びる可能性がある。
5. SNS上の誹謗中傷対策 – プロバイダー責任制限法改正など
SNS上での誹謗中傷やセカンドレイプなどの問題は、現在でも続いています。個人の悪質な投稿に対する対処方法はまだ解決策が見つかっていませんが、近年、対策が進められています。例えば、SNS上で誹謗中傷を行った人に対する情報開示手続きの簡易化や迅速化などの措置が広まってきました。
今年3月には、大規模プラットフォーム事業者にも迅速な対応や透明性を求めるための「プロバイダ責任制限法」の改正案が閣議決定されました。この改正案により、匿名の投稿者を特定しやすくし、SNS上での誹謗中傷に法的な責任を追及することが可能になりました。また、刑法の「侮辱罪」に懲役刑が導入されたため、SNS上の誹謗中傷に対しては厳罰化が求められるようになりました。
しかし、これらの対策が進んでいるにもかかわらず、SNSでの誹謗中傷やセカンドレイプの問題はまだ根絶されていません。総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」には相談件数が増加しており、2022年度の相談件数は8年連続で5000件を超える5745件となりました。このうち8割が個人の相談者であり、悪質な投稿に対処するための解決策はまだ模索されています。
SNSのひぼう中傷やセカンドレイプに詳しい山口准教授は、この裁判に関して、多くのフォロワーを持つインフルエンサーが「いいね」を押すことで相手に与える影響力を意識し責任を持つべきだと述べました。また、SNS利用者自身もネット利用のマナーを再認識する必要があると指摘しています。そのために以下の点に注意することが重要です。
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自己啓発: SNS利用者はネット利用のマナーを学ぶために自己啓発や教育を受けるべきです。相手への尊重や配慮を持ち、誹謗中傷をしない意識を養うことが求められます。
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社会規範: 現実社会でも言葉遣いや行動には社会規範が存在します。ネット上でも同様であり、他人に嫌なことを言わないという道徳心を守ることが重要です。パワハラやモラハラはネット上だけでなく社会全体で問題となっているため、意識して行動する必要があります。
SNS上での誹謗中傷対策を効果的にするためには、プラットフォーム事業者も積極的な対策を取る必要があります。
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AI機能: プラットフォーム事業者はAI技術を活用した検知システムの開発に取り組むべきです。これにより、侮辱的なリプライや中傷的なコメントを自動的に検知し、適切な警告や削除の措置を行うことができます。
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ユーザーレポート: SNS利用者が不適切な投稿を発見した場合、プラットフォームに報告する仕組みが必要です。事業者はユーザーレポートの処理を迅速かつ適切に行うことで、問題の早期解決に貢献することができます。
以上の対策を実施することで、SNS上での誹謗中傷対策がより効果的になると考えられます。個人の啓発や意識改善と、プラットフォーム事業者の積極的な取り組みが不可欠です。情報社会においては、個人の道徳心が重要であり、適切なネット利用のマナーを持つことが求められています。
まとめ
本事例は、SNS上での「いいね」行為が名誉毀損に当たる可能性を示した判例として注目されています。有名人や影響力のある人物の言動には大きな責任が伴うことが明らかになりました。一方で、一般ユーザーの場合でも、SNS上での誹謗中傷は法的責任を問われる可能性があります。今後は、ユーザー個人の意識改善とプラットフォーム事業者の対策強化により、SNS上の健全な情報共有が実現されることが期待されます。SNSの健全な利用を続けていくためには、個人の責任ある行動と事業者の適切な監視体制が不可欠といえるでしょう。